京都市がコロナ対策で後手に回った本当のワケ 財政全国ワースト2はこうして作られた

コロナ対策で脚光を浴び、一躍時の人となった大阪府吉村知事とは対照的に、今、京都市民の間ではコロナ対策への不満が爆発寸前になっている。門川大作市長のフェイスブックのコメント欄は荒れに荒れ、市役所や議員に対しても苦情が殺到している。リーダーの資質という問題もあるのだろうが、それ以上に深刻なのは、対策を打つための「お金がない」という根源的な問題がそこにはあった。今の京都市は国の補正予算による交付金が確定するまで自前の対策が全く組めない。対策が後手に回るのは当然のことだ。
京都市が夕張市に次いで二年連続全国財政ワースト2という汚名を被ったのは平成27年、28年のことだが、未だにワースト10から脱却することはできず、全国最低レベルの財政水準にある京都市。なぜ、ここまで財政が悪化したのか。

行政の黒字はナンセンス

 京都市の決算状況からみていこう。決算額は2015年(平成27年)9億円、2016年(平成28年)5億円、2017年(平成29年)4億円と、毎年黒字を維持している。しかし、企業と違い、黒字には何の意味もないのが自治体会計だ。
そもそも、自治体の収支は「とんとんまたはちょっと黒字」が理想とされており、形式的に言えば、「お預かりした税金はちょうどいい額で、ほぼ毎年使い切っています」という格好だ。一般家庭なら、生活費を借り入れしている時点で家計は赤字ということだが、行政は借り入れをしようが、無理やりどこからかお金をひねり出そうが、それは収入に計上され、収支さえ合えば黒字になるからだ。したがって、黒字赤字は何の指標にもならない。問題は、どのようにして決算の中身がつくられたのかということだ。

予算不足369億円からのスタート

 予算編成の骨格が決まるのは10月頃だといわれているが、毎年その頃に議会に報告されるのが、次年度の予算の見通しだ。そして、近年京都市では、その見通しの中で、予算が足りないという報告が上がってくる。2019年度(平成31年度)の予算不足は369億円だった。このままいけば、369億円の赤字ということになる。
「まいったな~。足りないじゃないか。なんとかしなきゃだな~~」
そこから、行政の錬金術が始まる。
2019年度の「不足を補う取り組み」は以下の通りだ。

  • 財政構造改革によって72億円→これはまともな取り組み
  • 特別会計繰出金の減・投機的経費の抑制により70億円→工事の後ろ倒しなど場当たり的対策
  • その他歳出の精査・財源確保により67億円→積立を崩す、借金返済を遅らせるなど
  • 臨時交付金の予算計上により13億円→国から追加で貰えるラッキーなお金
  • 財政調整基金の取り崩しにより19億円→貯金の全額取り崩し
  • 公債償還基金の取り崩しにより65億円→借金返済原資の取り崩し
  • 行政改革推進債により63億円→借金

 
見て頂くとわかるが、ほとんどの予算捻出方法が、財産の喰い潰しとツケの先送りなのだ。

貯金ゼロの街、京都

 さらに、家計に例えて詳しく見ていこう。
 皆さんならお金が足りないとき、どうするだろう? まず思いつくのは、貯金を取り崩して使おうということだろう。行政も同じで、多少の不足なら貯金を取り崩せば解決する。しかし、京都市はこの貯金がほぼゼロだ。2016年度(平成28年度)は底を尽き、その後少しだけ貯金したものの、手元には十数億円しか残っておらず、ほぼゼロ状態が続いている。ちなみに政令指定都市の中で、「貯金ゼロ」というのは、全国的にみてもごく稀で、まさに最低の状況だ。
 通常は、京都市程度の規模なら300億円ぐらいの貯金があるのが妥当だと言われており、とんでもない状況と言っていい。大阪の吉村知事がコロナ対策で思い切った対策を打てた背景にはこの貯金が随分積み立てられていた点にある。ちなみにお隣の大阪市は1630億円と橋下市長の改革の成果が如実に表れている。
 この貯金の性質について説明しておこう。行政の歳入は毎年景気の動向などに左右され、当然予測通りにはいかない。景気が良ければ、想定以上に収入が増え、大きく黒字になる。逆にリーマンショック級の不景気の波が来ると大幅に赤字になる。また、大きな天災などに見舞われたとき急な出費がかさみ赤字になる。それを平準化するために、黒字になったときにコツコツと貯金をし、赤字になりそうな時に使うという仕組みになっている。
 要は、景気の調整やいざというときの資金として、貯金が存在するわけだ。これを使いきったということは何を意味するのか。

いざというときにお金が使えず、しかも先人が積み立てたお金を食いつぶしてしまったということだ。
 ちなみに、我々が問題視しているのは、使い切った理由だ。貯金を使い切ると確かに今後の財政運営は厳しくなるのだが、必ずしも「使い切る=悪」ということではない。これまでも、東北大震災で福島市は貯金を使い切ったし、一昨年は想定外の大雪で除雪費用がかさみ、福井市も貯金がそこをついた。しかし、これは貯金を使い切る理由としては十分だ。
 しかし京都の場合は違う。大きな天災があったわけでも、事故があったわけでもない。ただ、生活費の補填に使ってしまったのだからニートと同じで、この無計画さこそが、京都の財政危機を招いている原因だ。

マジでやばい京都市の自転車操業

 もっと恐ろしい現実がある。京都市は、借金の返済原資を使い込みまくっている。行政の借金というのは少々特殊で、満期一括返済が原則になっている。つまり、返済期日がやってきたら、そのときに全額返済するというもので、毎月のローン返済のようなものはない。したがって、財務担当者は、返済期日に備え、計画的に資金を積み立てなければならない。これが公債償還基金といわれるものだど。
 この自治体も山盛り借金をしているので、毎年なんらかの借金が満期になって返済を迫られる。これを上手に切り盛りするのが財務担当者の腕の見せ所というわけだ。しかし、京都市はこの返済のために積み立てている貯金を予算に組み込む、という禁断の錬金術を繰り返している。これは多重債務者の「今日は△△ローンの返済日、明日は〇×クレジットの返済日、来週は□□ローンの返済日・・・とりあえず□□ローンは来週なので、その返済分は今週の生活費に使ってしまおう。で、今週末に××ローンから借りれば大丈夫」という自転車操業に似ている。絶対にやってはならない財務手法だある。
 これが、目に見えない「ツケの先送り」なのだ。そして、目に見えない分悪質だといえる。将来の返済分を今使っているのだから、次世代の返済は重くなる一方だ。「この手法は1日も早くやめたい」と京都市側は言うが、やめる気配はまったくない。これはマジでヤバい。

負担の先送りを繰り返した結果、悲劇が・・・

 さて、上記の使い込みとは別に正規の借金についても触れておこう。借金をすればするほど、将来への負担は大きくなる。これが、大きくなりすぎると夕張のように財政再生団体に指定され、事実上破綻する。この将来への負担を示す指標を将来負担比率と呼び、一般的には破綻危険度といった表現で用いられることがある。現在、600%を超える突出して悪化した夕張市を除くと破綻水準に近い自治体はないが、ついに京都市は2015年度(平成27年度)、2016年(28年度)と2年連続夕張市に次いで破綻危険度ワースト2位となった。
 ちなみに、昨今ふるさと納税の大盤振る舞いで話題になった泉佐野市(大阪府)は2008年度(平成20年)から早期健全化基準を上回る393%となり、遊休資産の売却などを進め、2013年(平成25年)には早期健全化団体から脱却したものの、未だにワースト10の常連になっている。総務省と対立してふるさと納税で全国の寄付を集め続けた裏には、そうした危機迫る財政危機があったことの付け加えておきたい。
 このように、市民が知らぬうちに自治体は自らの体をどんどん蝕んできた。結局、収入が多くても使うのがそれ以上に使えば金は残らないし、収入が少なくても身の丈に合う生活をしていればそれなりに暮らせる。今の京都市は年収は高いが、貯金もなく、借金が多いという方に酷使している。対策は、ただひとつ、身の丈に合った生活(会計)に変えることしかないのだ。(次号 後半に続く)

●負担の先送りワースト3

さて、正規の借金についても触れておこう。借金をすればするほど、将来への負担は大きくなる。これが、大きくなりすぎると夕張のように財政再生団体に指定され、事実上破綻する。この将来への負担を示す指標を将来負担比率と呼び、一般的には破綻危険度といった表現で用いられることがある。現在、600%を超える突出して悪化した夕張市を除くと破綻水準に近い自治体はないが、遂に京都市は平成27年度、28年度と二年連続夕張市に次いで破綻危険度ワースト二位となった。

平成28年市町村破綻危険度ワーストランキング
              将来負担比率     実質公債費比率
1位 夕張市(北海道)   632.4%      76.3%
2位 京都市(京都府)   229.6%      15.2%
3位 広島市(広島県)   223.9%      15.0%
4位 大竹市(広島県)   214.5%      15.7%
5位 淡路市(兵庫県)   208.8%      18.4%
6位 千葉市(千葉県)   208.7%      18.0%
7位 篠山市(兵庫県)   191.7%      19.8%
8位 泉佐野市(大阪府)  191.6%      22.4%
9位 高石市(大阪府)   189.8%      15.0%
10位北九州市(福岡県)  188.3%      12.6%


京都が観光で滅びる日」より一部抜粋をしております。 

ちなみに、昨今ふるさと納税の大盤振る舞いで話題になった泉佐野市(大阪府)は2008年度から早期健全化基準を上回る393%となり、遊休資産の売却などを進め、2013年には早期健全化団体から脱却したものの、未だにワースト10の常連になっている。総務省と対立してふるさと納税で全国の寄付を集め続けた裏にはそうした危機迫る財政危機があったことの付け加えておきたい。
また、政令指定都市が軒並み財政が悪いことに意外とお感じになるかもしれないが、これは政令指定都市のほうが一般市よりも借金しやすいためだ。地方自治体は借金に対する自由度が低く、むやみに借り入れができない仕組みにしている。ただ一般市に比べ、裁量権の大きい政令指定都市は借り入れがし易く、ある意味で負の領域にも踏み込める為、財政状況が悪いところが多い。

●自治体の借金が減らないワケ

京都市は全国的にみても突出して財政状況が悪いが、実はどこの自治体も借金が減らなくて困っている。構造的に借金が減らない仕組みになっており、その元凶はなんと国にある。
 今、国は自治体に対して信じられない無責任な言動を繰り返している。
自治体の予算というのは、大別して国庫支出金、市税収入、地方交付税の3つがある。国庫支出金は、国がやれと指示している事業を国のお金でやる、要は国の代理で業務を遂行する類のもので、義務教育や生活保護費の支給などがこれにあたる。それに対して、比較的自由に使える予算が市税収入と地方交付税にあたる。市税収入は個人・法人の市民税、固定資産税が主力だ。よく京都市は観光客が来て潤っていると思われがちだが、その効果がほとんどない。なぜなら市民税は所得税などとは違い、収入や利益が増えてもそれ程大きく収入が増えないからだ。最も大きな収入源である固定資産税も京都市は寺社仏閣、大学等の面積が大きく、一般家屋も古い木造が多いため、他都市より少ない。よって、財政基盤が弱いと言われるのだが、問題はそこではない。最後の地方交付税というやつだ。
これは、市税などの独自の収入が少ない自治体に補填をする制度で、これを貰わない自治体は不交付団体といい、自立している豊かな自治体と言われている。東京などがその代表選手だ。ほとんどの自治体は、この地方交付税を貰わないとやっていけないのだが、この交付税の配分が平成13年からおかしなことになっている。
 国も財政がひっ迫し、地方交付税の支払いが苦しくなった。そこで、国は一計を講じた。
国「国も今年は厳しい。交付税は全額払いたいが、全額は厳しいので1割減で払おう。」
地方「ちょっと待ってくれ。それじゃ、予算が組めないじゃないか。」
国「そうだよな。じゃあ、一旦、足らない分を借り入れしておいてくれないか。あとで必ず払うから。本来なら国で借りて払うべきなのだろうが、国の借金も多いのでそうして欲しい。」
地方「借金してもいいんですか?」
国「これは国のせいだから、もちろん認める。我々の手で必ず返還もする。これは臨時の財政対策なので、臨時財政対策債と名付けよう。」
地方「必ず返して下さいね。あくまで臨時ですよね?」
国「ああ、もちろん」
こうして、地方交付税9・臨時財政対策債1という割合で、実質的地方交付税が減額され、謎の借金が始まった。この臨時財政対策債が超くせもので、臨時は終わるどころか、平成13年以降ずっと増え続け、9:1どころか、6:4ぐらいの比率にまで拡大を続けている。

京都市の場合でいうと、平成12年1148億円交付されていた地方交付税は、今や534億円(平成29年度)と半分以下、それに臨時財政対策債が372億円という半分近くが謎の借り入れという構図になっている。臨時財政対策債の比率が増えてるのみならず、じわじわと総額が減り続けている。確かに後になって返済分を国が支給してくれるのだが、本当に返済分が支払われているかは謎だ。(実は国からのお金には明細がない。したがって、国が払ったと言えば払ってもらったことになるし、ほかの予算を減らして返済分に回すことも国の裁量なので何とでもなる。)正直、国ぐるみの自転車操業をいつまで続けるのかと理解に苦しむ。
しかも、最近ではこの臨時財政対策債をしっかり予算書に計上するようになっているが、以前は「あくまで国の立て替え的借金だから」といって自治体は自らの借金として計上すらしていなかった。
どこの地方自治体も借金を減らすのに躍起になっているが、このせいで永遠に借金は減らず、交付税は年々減らされ、行政改革をやってもやっても、一向に好転しないという悪循環に悩まされている。しかも、地方交付税は、あくまで市税収入の補填の側面が強いので、都市が頑張って市税収入をアップさせても、アップさせた分の地方交付税が減らされる(厳密には1増えると3/4が減らされる)。これは、働くと生活保護費が減らされるという生活保護費の支給によく似ている。
「バカげてる!!」と、歯を食いしばって臨時財政対策債などという借金はやめると宣言し、辞めることはもちろん可能だが、将来的に返済分が国から貰えなくなる計算になるので、結局損をするということになる。
こうした状況の危機感から地方自治体は自らの借金を減らす努力を続けており、京都市でも少しづつ自らの借金は減らしているが、臨時財政対策債がどんどん膨れ上がり、トータルの借金は増え続けている。ちなみに臨時財政対策債がはじまった平成13年1兆円弱の借金が平成29年度には8600億円に減ったが、臨時財政対策債が4400億円増え、トータルで1兆3000億円を突破している。我々はせめて合計の借り入れが増えないようにかじ取りをする必要があると主張している。
とにかく、年々国からの交付金は減らさせる。借金は押し付けられる。なんとかしようと努力したらこれまた交付金が減らされる。一方で、社会福祉経費は増え続ける。正直どうしようもない状態なのだ。
地方財政は本当にヤバい状態にある。その中にあって特別悪いのがこの京都だ。
国に大きく振り回される地方財政だが、だからこそ、それでもなお、しっかり自立できる財政構造の確立を急がない限り京都市もじわじわ沈み続ける。

詳しくは、『京都が観光で滅びる日(ワニブックス)』をご覧下さい。