行政最前線コロナVS京都市~なぜ、京都市の対応は遅いのか?~市民にツケが回ってくる!その回避の方法は?

リーダーの資質?

まず真っ先に申し上げたいのはリーダーの資質の問題がある。これはいい悪いではなく、平時向きか乱世向きかという見方がひとつだ。官僚型は、ルールの執行側という意識が強く、平時の安定した経営に向いており、失敗をしないことを第一に考える。安定感があるが、対応に遅れが出たり、ルールの中で対応策を練るので大胆な対応が期待できない。動きは横並びになりやすい。一方、政治家型は、ルールを作る側という意識が強く、世論に敏感で動きが速い。ただ、大胆で思い切った対応が取れる反面、既存のルールを捻じ曲げたり、判断を誤ると大きな失敗につながる恐れがある。動きは先行型になりやすい。
言うまでもなく、京都市や府は前者で、東京や大阪は後者だ。府の動きの方が力強いのは、西脇知事の経歴が東日本大震災の復興を手掛けた復興庁事務次官まで歴任された経験もあり、両方の資質を兼ね備えている部分があるという見方ができる。
 

コロナ対策に一円も使っていない自治体?

さて、全国に緊急事態宣言が出され、いつ収束するか先が見えない中、コロナの感染拡大防止と併せて、国民の耳目を集めているのが給付をはじめとしたコロナの経済的二次被害を防ぐための支援策だ。

国民一人当たり10万円といった国単位の支援策、休業要請に伴う協力金という都道府県単位の支援、堺市が発表した水道料金の8割減額といった市町村単位の支援と、それぞれの立場で独自の支援策が動き始めている。
 京都市も矢次早にコロナ対策の4月の補正予算を2288億円計上し、観光業に対する緊急助成や感染症対策などの予算を計上しているが、実は今回の補正予算でいえば、国から支給されたお金を使い、ほとんど市の財源は使っていない。厳密には中小企業預託金800億円という支出があるが、これは翌年返却される為、予算上の支出とはみなさない。また一部この間の自粛によって中止になったイベント等に使われる予定だったお金を補正予算に回しているので全くゼロというのは言い過ぎかもしれないが、少なくとも新規に予算を捻出した項目はない。5月議会でも更に補正予算が組まれる予定だが、これまた国から貰ったお金で対策を練る予定だ。各自治体、「独自の施策です」と胸を張るが、もともと今回はそうした裁量を持たせたお金が国から配られているので、実は、「独自の」といっても「独自の予算」でやるわけではない。大抵の自治体でも同じようなことが起きている。
もう少し丁寧に言えば、4月の補正予算については上記の通りだが、2月議会に計上された予算には多少独自の予算が計上されているので、「一円も使っていない」とまでは言い切れないにしても、ほとんど使われていないという実態にはさぞ驚かれるのではないかと思う。結局、財政に余裕がない自治体は身動きがほとんど取れない。

京都市の独自の補助金の実態

京都市が独自で実施したという上限30万円の中小企業等緊急支援補助金も内実はお粗末なものだ。現在第二次の補助金の申請が行われるところだが、なんと申請期間は5月11日~15日とたった五日間しかない。普通に考えるとあり得ない短さだ。なぜ、こんな短期間しか受け付けないかというと、莫大な需要が見込まれるが、予算は10億円しかない為、沢山申請されると困るからだ。仮に上限額に達した場合、申請者みんなでこの予算を割るというルールにしている為、沢山の申請があれば30万円の上限というものの、そこからどんどん減額されていくという仕組みなので尚更沢山申請されると困る。この申請期間の短さは、第一次に支給された同補助金の反省でもある。第一次の補助金申請はなんと一日で上限に達したため締め切った経緯がある。

先着順でないと銘を打っているが、私が実質先着順だと主張するのはこのあたりの経緯からきている。結局、必要な人が沢山いるが、その額を用意できない。しかし、他都市に負けず取り組んでいるという姿勢は示したい。このあたりの綱引きが編み出した苦肉の策と言えよう。
本来は国が全額面倒を見るというのが筋だと言えるが、結局国は面倒を見てくれないのだから、どうしようもない。
ついでに言えば、この補助金と対を成すように京都府でも同様の緊急応援補助金なるものが用意されている。あれだけ府市協調を強調しておられた市長だが、はっきり言って今、府市は完全に分断されている。結論から言うと、京都市が協調せずスタンドプレーに走り、京都府の関係者は怒り心頭状態で私のところまで府会議員が苦情を言ってくるような状態だ。府市協調で一緒になれば金額も増やしたり、窓口を一本化したり色々と良いことづくめなのだが、京都市が先行して行った結果、府が後追いでやる形になった。学校休校なんかもバラバラで足並みが揃っていない。今こそ、しっかり府市協調でやるべきだと改めて申し上げておきたい。

写真 京都府、京都市HPより

財政難のツケが市民に回ってくる

話を財政に戻そう。自治体はどんどんと借り入れが出来る国と違い、好き勝手に借り入れをすることを認められていない。国を本店だとすれば、自治体は支店、支店には極めて限定的な裁量権しか与えられておらず、トータルの予算も国が地方交付税交付金というお金を支給し、コントロールしている。その為、もともと財政は収支トントンになるように設計されており、好き勝手な借り入れが出来ないようになっている。そうした縛りがある中で自治体の予算編成が組まれるのだが、中身は千差万別、限度額最大まで借り入れをしたり、積み立てを切り崩している自治体がある一方、財政に余裕がある健全経営をしている自治体とかなりの差がある。
昨今、休業要請の為の協力金などを気前よく放出するなど特に話題になる東京都だが、これは主要閣僚から発言が飛び出すように極めて財政が豊かゆえにできることだ。続いて、積極的に攻めの姿勢が高く評価される大阪府の吉村知事だが、こちらも東京には及ばないまでも、かなり踏み込んだ支援を進めている。当初、「東京のような支援は出来ません」と断言していた大阪府でも、休業補償に係る協力金を個人事業主に対しては50万円、中小企業に対しては100万円を市町村と折半する形で支給することを発表した。
こうした取り組みにより高い評価を得ている吉村知事だが、これを可能にしているのは、実は橋下知事時代に徹底した財政再建に踏み込んだおかげということはあまり言われていない。

大阪府と折半することを快諾した松井大阪市長は会見で、「協力金の財源は10年前ゼロだった市の財政調整基金(市で蓄えている貯金)が、コツコツ蓄えて1491億ある。こういった緊急事態のときに蓄えていたもの。スピード感を持って投入することで、経済が回復するまで企業に事業と雇用をなんとか守っていただきたい」と胸を張る。
財政再建をやりきった自治体だからできることだ。
一方、京都市は全国最低レベルで金がない。だから、今回の補正予算でも一円も身銭を切っていない。というより無い袖は振れない。そういった事情を鑑みてか、決して財政豊かとは言えない京都府だが、市町村と折半することなく休業要請に伴う協力金(個人事業主10万円、中小企業20万円)を府独自で創設することを決めた。これは京都府なりにかなり頑張ったと私は思うが、県境をまたいで支給される額が、大阪が50万円、京都が10万円という差は府民にとって納得感があるとは思い難い。(厳密にいえば、京都市以外の府下の市町村は独自に上乗せをしているので、阪急沿線でいえば高槻市50万円、長岡京市20万円、京都市10万円という具合になっている。)なぜなら、その差は自治体の規模ではないからだ。

先述のように、大阪は東京と違い、もともと財政が豊かな自治体ではない。違いはただ一つ、「財政再建をやりきったか、否か」ということだ。
自治体の財政問題というのはとにかく選挙の争点になりにくく、関心も薄いテーマのひとつだが、こうした有事になるとその差が如実に出る。財政再建を後回しにしてきたツケはきっちり市民に回ってくるのだ。このように自治体の財政力によって有事の対策にかなり大きなかい離が出る。もちろん、国はそれを回避する為に出来るだけ財源を地方に回す努力をするのだが、痒い所に手が届くサービスまでは手が回らない。
普段、後回しにされる財政問題だが、この際改めて皆様にも御一考頂きたい。
 

今必要なのは支援だけでなく、資金の確保!

最後になるが、その上で今自治体が出来ること、いや唯一市民に回ってきたツケを回避できる方策を申し添えておきたい。それは、大胆な予算の組み替えだ。この間、家庭でもお金の使い方がかなり変わったのではないかと思う。私自身、外で会食する機会がゼロ、レジャーや余暇に係る費用もゼロ、その分家庭での食費や光熱費が増えた。当然臨機応変に皆さん対応しているはずだ。
3月に議会で可決されたばかりの行政の予算だが、家庭と同じように大幅な見直しをする必要がある。一部中止になった事業予算が補正予算に組み込まれているが、全庁を挙げて不要不急な事業は全面的に縮小し、休業補償や経済対策に振り分けるべきだ。命と生活を守るもの以外、削れるものは徹底的に削る。

このままではコロナ倒産やコロナ失業で自殺者が増え、地方経済もガタガタ、市民生活もままならない事態になりかねない。
今度ばかりは職員の給与カットも時限的にやらねばならない。多くの市民が痛みを伴っている中で、公務員だけが痛みを伴わないこと自体おかしなことで、「公務員給与が民間に準拠する」なら、早々に公務員の皆さんも歯を食いしばって取り組むべきだろう。ちなみに、この効果は凄まじい。京都市の規模でだいたい人件費が1000億円、一割のカットで100億円が捻出できる。例えば100億円あると、追加で市内の全事業所に10万円配り、さらに小中学校の生徒全員に3万円の学習用タブレット支給が可能だ。
 「ない袖は振れない」ではなく、「なければ作るしかない」。全国一斉緊急事態宣言下となった今、自治体がすることは市民の関心が高まる目の前の感染防止や補償だけでなく、それらをスムーズに進行させるためのバックヤードたる兵站(資金)の確保だということを忘れてはならない。